セッションの渦(Bunbeg/愛)

691f664b.jpg翌日、昼間は、デリーエア(ダニーボーイ)で有名な、
北アイルランド、デリーへ。ドニゴールとは隣り合わせで近い。
北アイルランドに踏み入れると途端にイングランド、
という気配がする。古い街である。
歴史を物語る高い城壁がこの街のシンボルで、
そこから眺めるカトリック地域は、
どうしても過去の暗い歴史を思い起こさせ、
薄く哀しい気持ちになる。

夜はユースの近く、
Bunbegにある、Teach Hudi Beagという
アイリッシュパブのセッションへ。

このあたりは、アルタンをはじめ、
素晴らしいミュージシャンを多数輩出している地域である。
ここの空気が、土地がそうした音楽を生み出す。
…上手く言葉に出来ないけれど、
あぁそうなのか…と強く心に響くものがある。

ここはそのアルタンのボーカリスト、マレードのお父さん、
フランシー・ムーニーがセッションを主催しており、
彼が亡くなった今も素晴らしいセッションを続けているという。

いい場所でじっくり聴こうとギネスも飲んでスタンバイしていると、
ユースのオーナーの奥さん、ミレイさんがやって来て、
セッションメンバーにあろうことか、紹介してくださる。
メンバーたちはにこやかに「是非入って一緒にやろう!」
と言ってくださる。ちょっと緊張…

フィドル・カウンティとも言われるドニゴールだけあって、
フィドルが5人、バウロン、ギター、そしてイーリアンパイプ。

結論から言えば、Ardaraでのセッションより
知らないチューンも多く、十分は参加できなかったけれど…
曲々から生まれるグルーブの渦は、ものすごく、すさまじかった。

軽快に、テンポの速いチューンが次々と繰り出され、
まるで演奏者の中央に台風の渦が生まれたかのように、
巻き上がってゆくように感じた。これか…!

セッションの途中、ゲール語の独唱も入る。
この時は皆、周りを静かにさせ、聴き入る。
コネマラから来たというおじさんのsingingが心にしみた。
音程も感情も揺るぐことなく、
淡々と語って聴かせるように、自分に問いかけるように、歌う。
Love songらしい。
時折、まわりの人々がゲール語で合いの手を入れる。
入れる場所は決まっているようだが、
感嘆なのか同調なのか、とても心のこもった合いの手だ。
日本の昔語りに入れる相槌を思い出した。

さらに夜も更けると、メンバーの一部や、
ユースに泊まっている外国人達が一緒になって
踊り始め、残りのメンバーは途切れることなく演奏する。
それがずっと、続いた。
皆心の底から楽しんでいる、いい顔だ!

セッションが終わって、ユースのコモンルームで、
ミレイさんが「今日のは特にいいセッションだった」と
静かに、満足そうに言っていた。
メンバーの中にマレードの親族も何人か混じっていたそうだ。
やけに感性の鋭い、求心力のあるフィドラーの指先を思い出した。