「レコーディング一日目その2」フィンランド演奏記その9

録音手順は日本と一緒。まずどこまで録るかを決め、せーので一緒に演奏し、録ったものを聴き、納得いかなければやり直す。その繰り返し。

やはり一番のネックは言語だ。そもそも英語力が無いので、今まで視覚頼りに意味を理解していたものが、ヘッドホンから聴こえる言語だけで理解しなければならない。さらには、TimoさんとSpeedyはフィンランド語でやりとりし、私に意見を求める時だけ英語になる。私もはじめての環境であわあわしているので、いきなり言われると聞き取れなかったりする。

またこちらからの要望も伝えなければならない。「プレイバック、プリーズ」(今のテイク、もう一度流してください)「What do you mean?」わーいつもレコーディングで使っている言葉が通じない!!
「I want to listen the  take once more」と言い直す。

手順は同じながら、ちょこちょこ違うところもあり、そのたびフリーズする。コイツに伝えるにはどうしたら…という空気が流れる。Timoさんもレコーディングが進むにつれ、ナーバス度もあがる。冷汗が出る。しかし、結局のところ、落ち着いて考えれば全て理解できることだった。私が日本で何十年やってきたレコーディングの知識や経験が、私をすごく支えてくれた。答えは全て自分の中にあったことに気づく。
…とはいえ、精神的には辛くて、日本のヴァイオリン壷井さんや、アイリッシュハープ梅田さんに泣きごとLINEをして励ましてもらったのはここだけの話。

一曲を全て録り終えるごとに、Timoさんが「Are you happy?」と聞く。リハーサルでも聞いた言いまわし。満足した?という意味。
「Yes!Happy!」と、あえてHappyも付け足して返事をする。
そう、かたちになってゆくのは楽しいのだ!

ランチは、3人で近くのショッピングモールのサラダバーで。
Speedyに、なかなか上手く対応できないことを謝ると「お前はなかなかよく頑張ってるさ、大丈夫だよ」と言葉少なに励ましてくれる(私の脳内で口調がハードボイルドに変換されています)。
「いちご、食べるかい?」Timoさんが私に聞く。山盛りのいちごとブルベリーを買ってくださり、スタジオに持って帰る。いちごは、フィンランド語でマンシッカ。一年中見かける日本と違って、数週間しか食べられない特別な果物。屋台いっぱいに詰まったいちごがパックに盛られ、皆こぞって買ってゆく。

「Speedyは、エンジニアとしても一流だけど、コーヒーを淹れるのも上手なんだ!」
いちごを片手にコーヒーブレイク。フィンランドっぽい!バニラっぽいフレーバーがほのかにするコーヒー、美味しい!

午後は少しだけスムーズに、だいたいテイク1か2くらいでオーケーが出て、全部で7曲、録り終える。無我夢中に頑張った!一発録りは、二人で同時に良いテイクを出すのが勿論一番良い。それは相性と気合、フィーリング。なんとかうまくいってよかった!

Timoさんは、私を家まで送ると、来週から始まるフェスのリハへと向かっていった。タフだ…。さすがフィンランドで一番忙しい音楽家…